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風見鶏の寝言077

「『三四郎』の一節より」



今、の書込というと、肯定派と否定派はどんな具合に割れるだろうか?

googleに「・書込」と打ち込んで大雑把に検索すると、書込を否定する見解が多いように見受けられる。

とある大学の大学院国際企業戦略研究科図書室のサイトでは、丁寧に文献を引用しながら、書込の禁止を説いている。

※不思議なことに、上掲のサイトは、URLが有効であるにもかかわらず、図書館の公式HPからのリンクがされておらず、直接アクセスする以外に発見できない。


図書館であるから、蔵書の書込の禁止を主張するのは極めて自然である
(ただし、上掲サイトは、なぜか個人蔵書の書込までも批判しており、これについては、蛇足と思われる)

また、人のものを「汚す」行為は、場合によっては賠償責任を生じたり、器物損壊罪となったりすることもある。

そういうわけであるから、図書館として書込を禁止する姿勢に特段の疑問は抱かない

図書館によっては、書庫に入庫できる学生を限ったり、あるいは、全く入庫を許さなかったり、さらには閲覧のみとして貸出を許さなかったりする。

ほぼ間違いなく学生による書込を防止したいという趣旨が含まれているだろう。

そこまではよい。


では、既にある書込は、全て「百害あって一利なし」だろうか?

価値のある書込もあるのではないか、という問いかけである。
(「汚す」行為とは受け取られない場合)



第一に、図書館のには、個人が寄贈したものも混じっている。

それらのに関しては、寄贈前に持ち主が書込をしたからといって、責められる筋合いはない。

書込のあるが嫌であれば、図書館は寄贈を受領せず、または、受領しても蔵書として棚に並べないという選択ができる。



第二に、の書込は、それ自体が先行研究の一部をなす場合がある。

つまり、ある研究者Aが借りた本にあった書込の主が、研究者Bである場合である。

そのとき、書込をした研究者Bは、Aと同じ分野につき、同じように興味を持ち、Aより以前に研究をした者である

必然的にAは、Bの先行研究論文はチェックすることになる

その際、Bの書込は、Bが論文の執筆にあたって、なぜ当該書籍を手に取り、どこに着目し、どう疑問を抱いたか、という思考の道なりを物語る極めて重要な手がかりとなる。

例えば、私の経験では、図書館の本を借りたとき、次のような書込があった。

●●著『*****』(▼▼社)に本書についての書評あり。コメントが参考になる。


また、次のようなものもあった。

●●氏の説によれば、ここはおかしい。~~となるはずである。


さらに、書籍の本文が暗に言及している事柄について、具体的に何のことなのかメモ書きしてくれているものもあった。

この第二の点に関しては、上掲のサイトでも、次のように留保を附しており、書込の価値を認めていると思われる。

文筆業や研究者といった一部の特殊な人々の場合には、読みながら書き込んだ結果を自身の著作活動の場にフィードバックして活かす機会があるのかもしれません





さて、価値のある書込もあるという事実を踏まえて、夏目漱石の『三四郎』のとある節を読み返してみたい。

上掲サイトでも引用・指摘されているが、もう少し長く引用しよう。

三四郎はこう云う風にして毎日本を八九冊ずつは必ず借りた。尤もたまには少し読んだのもある。三四郎が驚いたのは、どんな本を借りても、きっと誰かが一度は眼を通していると云う事実を発見した時であった。それは書中此処彼処に見える鉛筆の痕で慥(たし)かである。ある時三四郎は念の為め、アフラ、ベーンと云う作家の小説を借りてみた。よもやと思ったが、見るとやはり鉛筆で丁寧にしるしが付けてあった。この時三四郎はこれは到底遣り切れないと思った。(夏目漱石『三四郎』(新潮文庫、1986年)43~44頁・(角川文庫クラシックス、1998年)50頁)



舞台は当時(関東大震災前)の東大の図書館であり、三四郎は、この書込の量から、先輩たちの研究努力の蓄積の膨大さを痛感したのであろう。(そして、恐らくこの箇所は夏目漱石自身の経験であると思われる)

この箇所は、その後ももう少し書込についてのエピソードが続くが、いずれも書込に対して肯定的である。


改めて言えば、百害あっても、少なくとも一利くらいはあるのではなかろうか。
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