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風見鶏の寝言100

「国民に問われる2択」




今は昔、中国の皇帝の下で、親子で公務員をしている者がいた。
息子はあるとき、父親が巨額の横領を働いていることに気づく。
このとき、息子は父親を通報するのが正しいか、父親を匿うのが正しいか。



これについて、かの有名な諸子百家の中で大きな対立がある。

孔子は、息子は父親を匿うべきとし、通報するなどもってのほかだとする。

それは、孔子が家族道徳を重視し、親を敬う気持ち「孝」を、皇帝への忠誠心より優越するものとしたからである。

これに対して、

法家の韓非(かんぴ)は、むしろ逆に横領を報告するのを良しとする。

そして、親への孝行と皇帝への忠誠心は、一方を立てれば他方が立たないという関係にあるとし、見事に食い違うという
(五蠹編)

法家は儒家の系列であり、孔子と同じ流派であるが、両者がこうも立場が異なるのは、実に面白い。

そして、上の例で言えば、通報する"肯定説"としない"否定説"とは、どっちもありえる2つの見解である。



今、読者の皆は、横領はれっきとした犯罪であって、通報しないのはけしからんと思うかもしれない。

だがそれは、単に今の刑罰法規が、親が職場で行った横領を通報しないことを特に保護しない姿勢をとったからである。

つまり、上の2つの否定説の立場をとったからに過ぎない。

これが、もし今後、新たにそういう場合の刑罰を免除するなどの規定ができれば、話はまた変わる。




さて、これと似た問題は他の場面でもあるようである。

そして、今まさに、立場が変わるかもしれない分野がある。

例えば、以下のような場合である。

弁護士Aは、企業B社の顧問弁護士をしている
Aはある日、企業Bが、老人などをカモにして詐欺を働き続け、その被害額が10億円にも及ぶことを発見した。
Aは、警察に通報してよいか?



読者の皆は、どう思うか?

最初の例になぞらえれば、弁護士の顧問会社への孝行と、国延いては国民への忠誠が対立しているのである。

一般に弁護士は依頼者の利益のために働く

そして、依頼者から知った情報を外で口外してはならない(守秘義務)

とはいえ、例外的に、通報しても守秘義務に違反しないとされる場合は存在する。

例えば、以下のような場合である

弁護士Cが、依頼者Dと事件処理の相談をしているときに、Dが夜な夜な辻斬りのように人を殺していることわかったとき



このときは、守秘義務よりも、通報する正義が優先するとされる。

つまり、このときだけ肯定説を採っている。

しかし、上のように人が死傷することのない財産犯罪の場合には、現在の日本の法律では通報することは許されていない

つまり、否定説の立場である。

なぜかといえば、財産犯罪は、人が死傷するような罪に比べて軽いからという。

なぜ、軽いのかといえば、財産犯罪は、金を返してもらえさえすれば、取り返しがつくからであるという。

だが……本当にそういえるだろうか??

先日、詐欺によって、会社で働いていた多くの人々の年金基金となるべき資金を全て失ったAIJという企業があった。

現在、そのAIJ社長は実刑判決が出ている。
※ソースはこちら

刑罰はいいとして、では失われた1300億円は取り返しが利くといえるか?

その社長が有する全財産を全て処分したところで、到底1300億円には及ばない。

被害者である多くの人々の退職後の数十年間はどうなるのか?

もし、仮に1億円程度の段階でAIJの顧問弁護士がその実態に気づいていたというような事実があったならば、その弁護士を許せるだろうか?

少なくとも、この事件について取り返しが利くと説明できない限り、全て経済犯罪なら軽い罪だという論は詭弁と言わざるを得ない


今、世界的に、通報すべきか否かというこの問題が議論されている。

そして、このような経済犯罪も含めて弁護士が通報すべきだとする立場にちょっとずつ変わりつつある。

弁護士が通報できないと、インサイダー取引や、違法金のロンダリング操作の取締が難しいというのが理由の1つらしい。

国によっては、通報しなければならないとする法律を作ったところもある。

要するに、今、全世界を巻き込んで、もう一度、対立する2つの利益のどっちを優先すべきか、問われているのである。

日本の弁護士会は、弁護士が依頼を得にくくなることを懸念して、頑なに通報"否定説"を貫いている。

しかし、犯罪を見てしまったのに知らない振りをすることが許されるかは、これこそ本来国民的議論をすべきではないか。

しかも、多くの国民はそのような議論があることすら知らされていないのではないか?


もう一度、読者の皆は、どう思うか? 

どうやら、今、将来の日本の弁護士の姿を決めるときが来ているようである。
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